2020年の厚生労働省の調査のデータによると、女性の平均初婚年齢は29.6歳となっています。つまり、現代の日本は30代で子供を持つことを考える夫婦が多いと言えます。「これまでのイメージで、年齢が上がると妊娠しにくくなるとなんとなく思っていたけれど、30代はどれくらい急いだほうがいいんだろう?」「何を目安に不妊治療を考えたらいいんだろう?」「不妊治療ってどんなことをするの?」「実際のところ費用はどのくらいかかるの?」そんな疑問を持つ30代の方にお答えします。
高齢妊娠とは?
高齢妊娠とは、日本では「35歳以上での初めて子供を出産すること」と定義されています。世界産科婦人科連合では「35歳以上での初めての出産、または40歳以上での2人目以降の出産」としています。いずれにしても35歳に一つのボーダーラインがあるわけですが、これにはいくつかの理由があります。
日本産婦人科学会より
①妊娠率が低下する
卵子は胎児のときに作られ、精子と違い新しく作られることはありません。つまり、「卵子の年齢=自分の年齢」ということになります。そのため、年齢が上がるとともに卵子の質が低下し、妊娠率が低下していきます。
②流産率が上昇する
人の細胞の核には「染色体」があり、受精卵にもそれが存在します。染色体は人の体の設計図のようなもので、それに基づいて受精卵が胎児として成長していくのですが、設計図にエラーがあると(染色体に異常があると)、受精卵は途中で発育が止まってしまいます。この染色体異常も加齢と相関しており、年齢が上がるとともに流産の確率も上昇します。
③母体合併症が増える
妊娠中に「妊娠高血圧症候群」や「妊娠糖尿病」、「前置胎盤(胎盤の位置の異常)」「胎盤早期剥離(本来赤ちゃんが出た後に剥がれる胎盤が、赤ちゃんより先に剥がれてしまう)」などのリスクが上がります。母子ともに命の危険があります。帝王切開の確率も上昇します。
④赤ちゃんの発育に影響が出る
上記のような合併症が起きると、赤ちゃんの発育に影響が出る可能性があります。赤ちゃんが小さく生まれたり、逆に大きくなりすぎることがあります。また、これ以上の妊娠の継続が母体や赤ちゃんの命にかかわると考えられる場合は、早産にせざるを得ない(妊娠10か月を待たずにお産にする)場合もありますが、週数にもよりますが早産は赤ちゃんに後遺症を残す可能性があります。
以上のようなリスクは高齢妊娠で明らかに上昇するため、計画的なライフプランを考える必要があります。
30代の妊活の進め方とポイント
では、夫婦で子供が欲しいと思った時に、どのように進めていけばよいのでしょうか。
2015年に発表された論文に下記のような結果が示されました。
欲しい子供の人数別に見た、妊活開始の上限年齢
Hum Reprod. 2015 Sep; 30(9): 2215–2221より
当然のことながら、欲しい子供の人数が多いほど、若い時から妊活を開始すべきと言えます。また、現在では最も妊娠率に優れる治療法である体外受精でも、絶対に子供が1人は欲しいと思ったら、36歳が妊活開始の上限とされています。
いずれにしても30代になって子供が欲しいと考えたら、早めに病院に受診しましょう。まだ妊活を始めて間もない時期だったとしても、隠れている原因によっては自分たちだけで頑張る期間がもったいない可能性があります。
その上で、下記のような生活に気を付けてみましょう。
【女性側】
① 適切な体重を維持する
BMI[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗] 18.5以上25未満が適正体重です。痩せすぎ、太りすぎは妊娠に重要なホルモンに影響を与え、排卵しにくくなったり、妊娠後の流産、早産や妊娠高血圧・妊娠糖尿病など合併症のリスクが高まります。
② バランスの良い食事を心がける
1日3食規則正しく食べるようにしましょう。たんぱく質や野菜を意識して摂取しましょう。特定のものだけ食べる、逆に特定ものを絶対に取らない、など極端な食生活は栄養の偏りにつながることもあります。バランスの良い食事を心がけましょう。
④ アルコールを控える
過剰摂取は不妊症のリスクになります。WHOは妊娠を目指す期間、または妊娠中に安全なアルコールの摂取量は不明としています。米国生殖医学会は、アルコール1日2単位(缶ビールや缶酎ハイ500mL1缶=1単位)以上で、不妊症の確率が上がると発表しています。過量の飲酒は避けた方が良いでしょう。
⑤ 適度に運動する
週150分程度の有酸素運動を意識しましょう。ウォーキングやヨガなど、心拍数が上がりすぎない運動がおすすめです。
⑥ 感染症のチェック
母子感染に関連する感染症にはB型肝炎、C型肝炎、梅毒、HIV、風疹などがあります。特に風疹は、妊娠中に感染すると赤ちゃんに先天性風疹症候群(白内障、難聴、先天性心疾患など)を起こすことがあります。妊娠してからワクチンを接種することはできませんので、妊娠を考えたら早めに抗体を調べ、低い場合はワクチンを接種しましょう。パートナーの方も抗体が低い場合はワクチンを接種しましょう。
また、クラミジア感染症は卵管閉塞などを起こし妊活に影響が出ることがあります。男女とも症状が出にくいことも多く、知らないうちに感染していたり、パートナーにうつしてしまうこともあります。
⑦ がん検診を受ける
年に1回子宮頸がん検査を受けましょう。妊活を考える20代後半から増える癌ですが、早期に診断、治療ができれば、妊娠・出産も可能です。
⑧ 生活習慣病のチェック
高血圧、糖尿病などがあると不妊症につながりますし、妊娠後も重篤な合併症を起こすことがあります。適切にコントロールされていない場合はまずは病気を落ち着かせてから妊活を始める場合もありますし、治療に制限が出ることもあります。
⑨ 自分や家族の病気を知っておく
生活習慣病以外にも、不妊症や妊娠中に大きな影響を与える疾患があります。例えば甲状腺機能低下症は流産率に影響するという報告があります。その他慢性疾患など持病がある場合、主治医と妊娠に与える影響について相談しなければならないこともあります。
⑩ 毎日400㎍の葉酸を摂取する
妊娠する1か月前からの摂取が推奨されています。妊娠を考え始めたら意識して摂取しましょう。葉酸は赤ちゃんの脳や脊髄を形成するのに必要な栄養素で、細胞分裂が活発な妊娠初期に不足すると神経管閉鎖障害(二分脊椎や無脳症)という先天異常が起こる可能性が上がります。
【男性側】
①下半身を温めすぎないようにしましょう
精子を作る精巣は熱に強くありません。睾丸を温めすぎると精子形成に影響が出る可能性があります。締め付けの激しい下着を避けたり、長時間座り続けるのは精子にとって悪影響です。
②亜鉛を摂取しましょう
精子形成に重要な栄養素です。積極的に摂取しましょう。
【男女共通】
① 禁煙する
喫煙は男女とも妊娠率を下げます。女性の場合は卵子の質に影響し、男性の場合は精子の数や運動率を低下させると言われています。また、妊娠中の喫煙や受動喫煙は早産や低出生体重児のリスクを上げますし、出産後、赤ちゃんの乳幼児突然死症候群にも関連すると言われています。喫煙本数によっては使用できない薬もあります。「妊娠したら止める」という方もいますが、妊活中から出産後まで悪影響がありますので、止めるなら早い方が良いでしょう。
② ストレスをコントロールする
ストレスは現代社会を生きていく上で避けることはできませんが、過度のストレスは妊娠からも遠ざかります。ストレスを発散できるような趣味やうまくコントロールできる方法を見つけたり、パートナーや友人、医療関係者などに相談するのも良いでしょう。良質な睡眠をとるのも妊娠に良いとされています。
30代の不妊治療を受けるタイミングや治療法
30代であれば、子供が欲しいと思ったらまずは不妊症専門クリニックを受診しましょう。男女とも原因を調べ、ご夫婦の意向を汲みながら治療方法を検討します。
不妊治療には大きく分けて3つのステップがあります。
① タイミング法
月経周期から計算し、排卵の可能性が高いと考えられる時期に何回か性交渉をもつ方法です。排卵時期をより正確に推定するために、何回か超音波で卵胞の大きさを計測したり、なかなか卵胞が育たない場合は排卵誘発剤を使用することがあります。
②人工授精
排卵する可能性の高い日に精液を採取して病院に持参し、精子を遠心分離して子宮内に注入します。タイミングよりも精子が移動する距離が短くなるため、軽度の男性因子がある方や性交障害がありタイミングが取れない方に効果がある可能性があります。
③体外受精
体外受精とは、女性の卵子を取り出し、パートナーの精子と受精させ、受精卵を培養して、発育した胚を子宮に戻して着床を促す治療です。
このように体の外で受精を行うので体外受精といいます。
一般的に薬を使って複数の卵子を育てて採卵し、体外で受精させます。受精卵をそのまま体外で育て、そのまま子宮内に戻したり、あるいは一旦凍結して、別の周期で受精卵を戻します。
実際のところ、タイミング療法や人工授精の妊娠率は10%程度と決して高くはありません。一方で、体外受精は、30代であれば40-50%と、現在行える治療の中では高い妊娠率が期待できます。ただし体外受精とはいえ、妊娠率は年齢とともに低下していくため、状況によりステップアップは早々に考えた方が良いでしょう。
30代の不妊治療の保険適用について
治療法別の保険適応での費用について説明します。使用する薬や個人の体質、周期により異なるため、目安となります。
①タイミング療法:約5千-1万円以内
②人工授精:タイミング療法+処置代5460円
③体外受精:採卵1回+移植1回:約15-20万円程度
ただし、体外受精の保険適応には下記のような条件があります。
- 対象年齢:治療開始時の妻の年齢が43歳未満
- 回数:40歳未満6回まで/40歳以上43歳未満3回まで(胚移植1回の回数をカウントします。採卵の回数は上限がありません。また、2人目の治療の際は回数がリセットされます。)
- 婚姻関係:法的な婚姻関係あるいは事実婚関係(同一世帯に住んでいる、子供を認知予定、配偶者無し)にある。
つまり、40歳を超えると保険で治療を行える回数が減ります。回数を超えると以後は自費治療になります。妊娠率を考慮しても、早めの治療開始が良い大きな理由の一つと言っても良いでしょう。
妊活のご相談は松本レディースクリニック
当クリニックは、「赤ちゃんが欲しいのになかなかできない」と悩んでいらっしゃる方のための不妊治療専門クリニックです。
妊娠しにくい方を対象に、不妊原因の探索、妊娠に向けてのアドバイス・治療を行います。
1999年に開業し、これまで、不妊で悩んでいた多くの方々が妊娠し、お母様になられています。
当院の特徴につきましてはこちらをご参照ください。
https://www.matsumoto-ladies.com/about-us/our-feature/
まとめ
今回は30代の妊活について説明しました。30代は子供が欲しいと考え始める方が多い年代ですが、一方でその10年の間に妊娠率や流産率が大きく変化するため、ひとくちに30代での妊娠、治療を語ることはできません。
子供が欲しいと思ったら、まずは早めに不妊治療専門病院に受診し、夫婦で検査を受けましょう。そしてご夫婦でのライフプランに合わせて、どのような方法で進めていくのが良いかアドバイスを受けましょう。